授業紹介 サマーセッション「リサーチ・プロジェクトⅠ・Ⅱ(講師:市原佐都子)」

【演劇コース授業紹介⑱】


「身体表現と舞台芸術メジャー」「舞台技術・公演マイナー」「アーツ・マネジメントマイナー」「演劇ワークショップ実践マイナー」で行われている舞台芸術に関する様々な授業を写真とともにご紹介いたします。

 

「リサーチ・プロジェクトⅠ・Ⅱ」
講師:市原佐都子

 

今回は、サマーセッション(夏休み期間中の授業)開講の、市原佐都子先生による「リサーチ・プロジェクトⅠ・Ⅱ*」の授業の一部をご紹介します。
*リサーチ・プロジェクトⅠ・Ⅱ:ボーダレスな表現手法を要求される現代の役者・ダンサーに向けた約2週間集中講義。国内外の講師から表現方法の多様性を学び考察し、最終日にはショーイングを行います。
【2024年度:市原佐都子先生講義概要】
人間の行動や身体にまつわる生理、その違和感を独自の言語センスと身体感覚で捉えた劇作、演出を行う劇作家・演出家の市原佐都子氏が7日間に渡り、集中的なワークショップを実施する。最終日には7日間の集中ワークショップを通して学んだものをもとに、小さな作品をつくり、発表する。

 

[講師プロフィール] 

市原佐都子劇作家・演出家・小説家・城崎国際アートセンター芸術監督
1988年大阪府生まれ福岡県育ち。桜美林大学にて演劇を学び、2011年よりQ始動。人間の行動や身体にまつわる生理、その違和感を独自の言語センスと身体感覚で捉えた劇作、演出を行う。2011年、戯曲『虫』にて第11回AAF戯曲賞受賞。2017年『毛美子不毛話』が第61回岸田國士戯曲賞最終候補となる。2019年に初の小説集『マミトの天使』を出版。同年『バッコスの信女ーホルスタインの雌』をあいちトリエンナーレにて初演。同作にて第64回岸田國士戯曲賞受賞。2021年、ノイマルクト劇場(チューリヒ)と共同制作した『Madama Butterfly』をチューリヒ・シアター・スペクタクル、ミュンヘン・シュピラート演劇祭、ウィーン芸術週間他にて上演。2023年、『弱法師』を世界演劇祭(ドイツ)にて初演。

 

 

市原佐都子先生は演劇ユニットQの主宰であり、国内だけではなく国外でも数多くの作品を上演。近年では劇作家・演出家としてだけではなく、小説家や芸術監督など多方面で活躍されています。

この授業では劇作について考え、戯曲との向き合い方や書き方を実践的に学んでいきます。また、最終日には7日間の集大成として、書き上げた戯曲を舞台に立ち上げ、ショーイングを行います。

 

 

はじめに、‟そもそも戯曲とは何だろう?”ということを考えました。
市原佐都子先生の過去作品を観たり戯曲を読んだり。創作のきっかけになった出来事や作品が完成するまでにたどった道筋を解説していただきながら、まずはインプットをして自分の中の引き出しを刺激する作業を行いました。

 

最終目標を「ひとり一本、戯曲を書き上げる」として、まずはモノローグを書いてみることに。突然課された宿題に戸惑いながらも、➀誰に語らせるか➁どこで語らせるか③どのような形式があるか、という3つのポイントを意識しながらおのおの書き進めました。

 

 

次の日、書いた本人が読む人を指名しながら、みんなが一晩で書き上げてきたモノローグを読んでいきました。

全員分のモノローグ、かなり量があります。

〈ショックだったこと〉〈違和感や怒りを感じたこと〉〈言いたかったけど、言えなかったこと〉〈言いにくいけれど、言ってみたいこと〉たちを、自分の価値観と自分の言葉で素直に表現した個性的なモノローグの数々が生まれました。

 

 

このモノローグを出発点とし、さらに戯曲へ発展させるため、少人数でブレインストーミングを行いました。このあと誰が登場したら面白いか、これからどんな展開が待ってそうかなど、考えられるアイデアを質より量を重視して自由に出していきました。

市原佐都子先生からアドバイスをいただきます。



 

 

ひとりでは思いつかないような視点を共有でき、少し凝り固まりかけていた頭もスッキリして、非常に刺激的な時間となったようです。

 

 

ここからはラストスパート!
学内のあちこちに散らばって黙々と戯曲の完成を目指します。

普段とはひと味違う、自分の世界に没頭している姿をたくさん見かけました。

 

 

 

最終調整中・・・。

 

 

 

そして書きあがった多種多様な戯曲の中から、市原佐都子先生によって今回のショーイングで発表する3本が選出されました。
選ばれた3人が出演者をオファーしていく形でグループ分けを行い、次の日に迫る発表に備えての稽古が開始。時間や使える場所・ものも限られているなか、身体を使ったパフォーマンスを取り入れたり小物や置き道具にこだわったり、演出的な考え方も自然と鍛えられたようです。

 

 

 

ショーイング当日。短い準備期間でしたが直前まで粘り、照明・音響・映像の確認もぬかりなく行いました。

 

 

 

 

 

本番前の円陣

 

 

1作品目『いきいきと』 作:堤晴香 (4回生)

あらすじ
水族館の水槽の上、サメの飼育員がいる。サメの餌には、公募によって選出された死を選んだ人間の臓器が含まれている。そこにいのちの塊が現れ、「生」について飼育員に問う。

作者コメント
先日高校の仲良かった先輩が亡くなりました。死因は教えてもらえませんでした。2人で遊んだわけでもない。卒業後飲みにも行ってない。でも好きな先輩でした。全然信じられません。生きていて欲しかった。なのに死にたい、生きたくないっていう気持ちもわかるんです。でも生きていて欲しかった。全ての気持ちを詰めました。見た人が楽になればいいなぁと思います。2年前、水族館の餌やり体験に行った時。流れが速い水槽を見ていると飼育員さんに「落ちたら、四肢がもげますよ」と淡々と言われました。その時この人は何度も命の終わりを見ているんだと感じたのを覚えています。生きるのも死ぬのも日常にある水族館の飼育員さん。そこに、いのちの塊が生き方について問いてくる物語です。

 

 

2作品目『インスタント』 作:原麻名実 (3回生)

あらすじ
嘘をついて平穏な日々を過ごそうとする一人の女性。偽りの上に成り立っているその生活は、少しずつ彼女を蝕んでいた。最後に選んだのは噓か、本当か。

作者コメント
誰でもSNSを利用することができる現代。何が嘘か本当か、あなたは見抜くことが出来ていますか?あなたが真実だと信じていることも、実は嘘かもしれない。しかし、嘘を本当だと信じるからこそ上手くいくこともあるでしょう。
そんな、嘘で成り立つ関係性をテーマに書いた作品です。

 

 

3作品目『全員優勝』 作:池内怜士 (3回生)

あらすじ
配信をしているおじさん、リビングにいるおばさん。子供向け番組のおねえさん。オリンピックの実況をしてる人。焼肉食べに来たお客さん。セミさん。俳優さん。お客さん。そして、僕。みんな色々考えて生きてます。全員優勝!!!

作者コメント
授業で初めて戯曲を書いてみました。池内怜士と申します。演劇の勉強しながら、焼き肉屋でアルバイトしてます。全員優勝というタイトルの、この戯曲は自分の身の周りでおこったこと、自分が普段考えてること、自分がいつもやっていること、嫌だなって思ったこと、怖いなって思うことをいくつかの形式にパッケージして、物語に繋ぎ合わせたものです。そして最後には全員優勝します。ずっと、自分の話をしています。登場人物は、すべて僕の妄想です。自分の欲望も自分の恐怖も自分の趣味もすべて役に背負ってもらいました。その自分の考えを役に押し付けてしまったことに対するお話も書いています。僕は、そんな思いを乗せた役も、それを演じてくれた俳優の方々も、この作品を見てくれた観客の方々も、そして僕自身も幸せになれたらいいなって思っています。

 

 

普段はなかなか戯曲を書く/書き上げるという機会がなく、特に自分の内側で考えていることを正直な表現や言葉遣いで可視化(=戯曲化)するという部分に戸惑う様子もありましたが、市原佐都子先生の創作に対する向き合い方を聞いて、みんなのなかの何かが変わったようでした。
0から創造することの難しさ、表現者として大切にすべき視点、そして現代/世界を自分の目でどうとらえるかの重要性を知ることができ、学生たちにとって大きな成長につながる7日間でした。

 

 

 

授業最終日のショーイングの様子は以下よりご覧いただけます。

www.notos-studio.com