あそこにも、ここにも続く、道、道。

平家物語 Performance』から1ヶ月が経って、気づけばもう『義経記 REMASTER』の本番がすぐそこですね。あの頃は桜が綺麗に散る様を、厳しい寒さから新しい命が芽吹く音を全身に取り込もうと必死だったのに、気づけばもう梅雨入りだそうです。

 
 先日は舞台仕込み日でした。私は今回美術補佐として関わらせて頂いています。前回の『平家物語 Performance』に引き続き、今回もプランはカミイケさんです。連日の稽古でお疲れのキャストの皆さんにも協力して頂いたおかげで、より見応えのある引き締まった舞台になったのではと思います。私もこれからどんな作品に仕上がっていくのか、とても楽しみです。
 
 今回の舞台は、義経都落ちから生涯を終えるまでの”道行き”、ロードムービーとなっています。私は義経についての知識があまりないので、”道”に関する私の話をして終わろうと思います。(?)
 
 高校時代、放課後によく散歩をしていました。ある日は学校の近くにある公園や河原を、またある日はその先にあるパン屋さんを。でも何か目的がある訳でも意味があるわけでもありません。時には家とは真反対の方向へ歩きだしたり、早朝に家を飛び出して走り出したり、散歩というか放浪、の方が近いかもしれません。あの時は、道を外れて危ない道を渡りそうな私を怒ってくれる大人も沢山いました。そういう存在があって、私はここまで生きてこれたのだなと感じます。
 
 大学に入って、意味も目的もなく歩きたい、という感情は消えませんでした。そこに道があるから。一点に留まりたくないから。なんて馬鹿なことを言うと、きっとまた怒られるのでしょうから、決して言いません。でもここでこうやって書いているということは、まだ叱ってくれる存在がいるのではないか、迷子になった私を導いてくれる存在がいるのではないか、と期待しているからかもしれません。
 
 
 この前歩いたのは、坂を何度も上ったり下ったり、車は通るけれど人とすれ違うことは1度もない山道でした。この街は人がいないのでは…?と不安になるくらい、寂しい孤独な道。でもその先には小学校があって、ここは確かに誰かが踏んで歩いている、立派な道なんだと安心しました。随分歩いて、自分の歩く音しか聞こえなり始めた時、ふと右手にお地蔵さんがいて。私とは目が合わないけれど、私の歩いてきた道をお地蔵さんはずっと見つめていました。振り返ってみると、そこにはそういえば私が通ってきた道があって、私は何故か、私を想ってくれている人や私が想っている人、過去に私が傷つけてしまったあの人や傷つけられたあの人の事を考えたりしました。私はなんであんな事をしてしまったのだろう。私は、誰のために、何のために。無力で不甲斐ない自分がいた事が思い出されて、責めて責められる声が聞こえて。あんなに歩き出したくて仕方なかったのに、どこにも行きたくなくなってしまって。それでも、それでも前にも後ろにも道があるんです。だから、歩くしかない。時には笑って、泣いて、怒って。そういう一瞬の感情でやり過ごして後悔して。自分の足で、歩いていくしかないんだと思いました。
 
 
 3回生、黒木麻絢です。長々とすみません。もう、やっと、まだ、すでに3回生です。少しだけ、いやもう少し、強くしなやかに生きていきたいです。
 
 本番まであとわずかとなりました。義経記に携わらせて頂いて、難しい時代を必死に生き抜いてきた彼らの生き様に、自分の心が震えているのを感じます。彼らにも私と同じように、苦しくて苦しくて、歩き出したくて仕方ない夜はあったのでしょうか。必死に生き抜いてきた彼らの魂を、まだまだ多感な時期である我々学生が、身を削って作り上げています。その少し危なっかしくて、でも健気でひたむきで美しい生き様は、きっと今を生きる皆様方の心にも響くものがあると思います。少しでも見にこられた方の多くに何かを残せたら、皆様の心に生きていればいいなと願いながら、あと少し、精進して参ります。
 
 
 予約されていない方も、お席の方まだございますので、是非是非、ホームページの方ご覧下さい。ノトススタジオにてお待ちしております。それでは、またどこかで。