線路脇の土手、百年目の最前線。

来たる7月の16㈯、17㈰、ノトススタジオにてノトスラボvol.14『命を弄ぶふたり』を上演いたします!

さて、今回のブログでは作品の概要や上演にあたってのこだわり等々、まだ観劇する予定の無い方は観に行きたくなる、既に観劇する予定の方は観に行くのがより楽しみになる情報を発信させて頂きます!(……発信する予定です、頑張ります…!)

お相手は本公演の俳優兼ドラマトゥルクの椙田航平(すぎたこうへい)が務めさせて頂きます。もう4年生になりました。進路が全然決まりません、はい。

 

まず、今回の上演の一番大きな特徴について

何といっても4つのチームに分かれての上演であるという点です!

それぞれのチームがどんな作品になっているのかは後程詳しく書かせて頂きますが、

とにかく、どのチームも脚本から演出から全くの別物に仕上がっています!

 

今回取り扱う岸田國士の戯曲『命を弄ぶ男ふたり』は、(厳密には全ての書き物がそうなのでしょうが)どんな風にでも読み取れる作品だと思っています。書かれている言葉の一つひとつに含みが多く、逆に細かい情報があえて書かれていない部分もあり、余白と言うか、解釈の余地が非常に多い作品なんです。(気になった方、ぜひ青空文庫で読んでみてください…!)

 

この戯曲には、自分の命を自分で投げ捨てようとしながらも、その瞬間を懸命に生きる人間模様が描かれています。生への執着や諦め、死への恐怖や期待、人間への深い愛情や憎しみなどなど、「命」そのものが持つ不毛性や美しさといった要素で満ち満ちています。

ですので、今回の上演では、そんなたくさんの要素を時に丁寧に、時に大胆に切り取ったり拡大したりしながら4つの物語に枝分かれさせていきました。

 

ここからは、そんな4つのチームについてそれぞれ詳しく紹介させて頂きます!

 

 

Aチーム(原文ver.)

原作『命を弄ぶ男ふたり』を一切書き換えずに当時の言葉のまま上演いたします。大体45分くらいの決して長くない作品ですが、この百年間で何度も繰り返されてきたこの45分間の最後尾に立てること、考えるだけで興奮してきます…!

この作品、実は書かれたのが1925年で、先述の通りほぼ百年前の作品なんです。(ブログのタイトル、「百年目…」が抜けてます。その方が語呂がいいので抜いちゃいました。ごめんなさい…。)時は大正時代の終わりごろ、普通選挙法が公布された年です。

イタリアではムッソリーニが独裁宣言を出し、ドイツではヒトラーがナチ党を発足させ、少しずつ戦争の足音が近付いてきている時代。命の価値が少しずつ軽くなってきている時代とも言えるかもしれません。

鉄道自殺を目的に線路脇の土手を訪れた男ふたりが偶然出会い、互いに自らの自殺の正当性を主張しながら、その遠因となった恋人の話など、様々な身の上話を重ねていく…

 

眼鏡役を演じるのは2年生の尾崎海斗くん。

6月にノトススタジオで上演した『ダンデライオンズ』では主人公のひとり、柿沼正志

を演じていました。儚げな立ち姿が印象的な、底の知れない俳優であります。

 

包帯役は私、4年生の椙田航平です。

思い浮かびやすいところで申しますと、『義経記REMASTER』で源義経を演じていました。原文ということで、諸々プレッシャーは感じますが、百年前の言葉を舞台で語り、観に来て下さった方々と共有できるということを光栄に思いつつ、この百年間でこの戯曲を上演してきた俳優たちと、お客様皆様に恥じない演技をしたいと思います!

 

 

Bチーム(出会ver.)

一言でいうと、「破滅的なボーイミーツガール」です。

その場に居合わせるのが男ふたりではなく男と女だったら、という設定で、眼鏡役を女性に書き換え、男ふたりでは到達できない男女の繋がりの妙を描き出します。

眼鏡(女)を演じるのは卒業生の田中まみさん。

前年度に卒業された演劇コース9期生で、卒業公演『隣の芝生の気も知らないで』では作品の中心ともいえる〇〇を、『義経記REMASTER』では北条政子を演じられていました。今回の役どころは自殺をしに来たミステリアスな女性ということで、包帯役の土田君を翻弄します。

包帯を演じるのは2年生の土田倭也(ともや)くん。

義経記REMASTER(再演版)』では源頼朝様を、今年度の『平家物語Performance』では源義経を演じていました。誠実で情に厚いが、それゆえに破滅的な立場に陥るBチームの包帯をエネルギッシュに、時にはユーモラスに演じています。

 

Cチーム(恋人ver.)

原作では姿を現さない男ふたりそれぞれの恋人たちにスポットを当てた外伝的作品です。4つのチームの中で一番オリジナリティのある作品と言えるでしょう。原作『命を弄ぶ男ふたり』だけでなく、『葉桜』や『紙風船』など、多くの岸田國士作品からテキストを引用し、この時代から現代まで通底する女性たちの強さを描き出します。

また正直なところ、4つのチームの中で一番稽古が難航している作品でもあります。原作では男ふたりが持つ愚かさがストーリーを進めていく重要なエンジンになっているのですが、女性だとそのニュアンスを出すのが難しく、ストーリーもなかなかに進めづらいのです(決して差別的な意味でこのようなことを言っているわけではないということはご理解ください。また、もしこの文章で不快な思いをされる方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。)。

しかし稽古を進める中で、この時代の女性と現代の女性の社会的立場や感覚のズレなど、いくつか気付かされることがありました。また同時に、当時と今も変わらない「人が人を愛するということ」の難しさや美しさも再発見いたしました。そういったエッセンスを活かし、観て下さった方々に何かを持って帰っていただける作品にできるよう日々稽古に取り組んでおります!

 

眼鏡の恋人を演じるのは2年生の武内愛実さん。

ノトススタジオの公演には裏方として携わることが多く、先月の『ダンデライオンズ』にも出演されていましたが、ここまでセリフの多い役どころは今回が初めてです。

儚さと落ち着きが同居する絶妙な居ずまいと、優しくもどこか物悲しい丁寧なセリフ運びで、悲運に苛まれる良家の娘を演じています。

 

 

 

包帯の恋人を演じるのは4年生の黒木麻絢(まひろ)さん。

今年度の『平家物語Performance』では三人いる語りの内の一人を担っていました。

芯のある力強い声色で、観る側の意識を捉える彼女の演技の説得力には、同期としても少し嫉妬するものがあります。

 

Dチーム(自決ver.)

原作が持つ破滅性や不毛性を存分に拡大し、鳴り響く音楽と役者の肉体、繰り返されるセリフで以て描き出した挑戦的な作品です。

短いフレーズの中にも強烈なエネルギーが宿る岸田國士の戯曲だからこそ可能な大幅なテキストレジで、シンプルで切れ味のある作品になりました。「命を弄ぶ」と言うよりは「命に弄ばれる」男ふたりと言う方が適切な作品かもしれません。いずれにせよ、4つの作品群を締めくくるにふさわしいパフォーマンス性です。

眼鏡を演じるのは3年生の岡田祐介くん。

ダンデライオンズ』では主人公のひとり、町村修を、『平家物語Performance』では二年連続で能登守教経(クライマックスで男二人を抱えて海に飛び込む姿が印象的でした)を演じていました。

優しい声色からは想像もできない大胆な演技で、共演していても驚かされることが多々あります。ここぞという時の爆発力がある俳優です。

 

包帯を演じるのは卒業生の小崎彰一さん。

義経記REMASTER』では戦の有様を語る船頭など、多くの役を演じておられました。(船頭の戦語り、私の大好きなシーンの一つです…!)

演劇コースの7期生で、在学中は主にダンス作品に多く携わっていたこともあり、高い身体性がまず大きな魅力です。そして、臭みの無い素朴なセリフ運びには、観る側の心にまっすぐ突き刺さる力があります。

 

 

さて、気が付けばちょっとしたレポートくらいの長文になってしまいました。まだまだ語りたいことはたくさんありますが、百聞は一見に如かず。このブログを読んで少しでも興味を持っていただけた方は、ぜひ劇場に足をお運びください。既に観に来て下さる予定のある方は、このブログを読んで少しでも観劇が楽しみになったなら幸いです。また、残念ながら今回は観に来られない方、これを機にノトススタジオでの活動や岸田國士の戯曲に関心を持って頂いた方、いつか劇場でお会いできる日を心より楽しみにしております。

 

ではでは、本番まで残り一週間、まだまだ面白い作品にしていきたいと思いますので、お楽しみに!